大きな数
数には上限がないから無限に大きな数が存在しうる。しかし、その大きな数をどこまで表現できるか(する気があるか)というのは言語によっていろいろではないかと思う。
日本語でいちばん大きな数の単位は「無量大数」だそうである。日本語の数の体系は中国からの借り物だと思うが、一、十、百、千、万までは十倍、それ以降は億、兆、京、垓……と一万倍ごとになっている。で、この無量大数というのは10の88乗だそうである。10の88乗と言われてもぴんとこないが、10の8乗が1億だからその11乗ということになる。うーむ。でかいというのはわかるがぜんぜん実感が湧かん。
で英語の場合であるが、one, ten, hundred, thousand までは10倍ごと、それ以降は million が thousand の一千倍で100万、billion がその一千倍で10億、trillion がその一千倍で1兆……というのが現在の数の体系である。しかし、ご存じのかたも多いかと思うが昔はそうではなかった。billion というのは million の2乗、つまり1兆だったのである。このあたりはラテン語からの借用らしいが、さすがローマ人は合理的である。日本語では大きな数になると「不可思議」だの「恒河沙」だの「無量大数」だのという夢のある名前がついているが、ラテン語ではそうではない。million 以降はぜんぶ、million の○乗で話をすませてしまう。billion が2乗、trillion が3乗、quadrillion が4乗という具合で、-illion の前についているのはラテン語の数詞の変化形のようである (よくわかんないけど)。ちなみにめちゃくちゃでっかい数という意味でしか使われない centillion というのは million の100乗という意味であって、これはなんと10の600乗である。無量大数の「10の512乗」倍である。なんだそれ。しかも理論的にはもっとでかい数詞をいくらでも作れるわけで、ローマ人はやっぱりすごい……のかもしれないがほんとにそうだろうか。
いくらローマ帝国が巨大な帝国だったからって、こんなでっかい数詞がほんとうに使われてたとはとうてい思えない。いや、絶対使われてたはずがない。そもそも billion が million の2乗というところからして無理がある。だってあなた、100万のうえが億もすっとばかしていきなり「兆」になるんですよ。そのあいだに存在する数が表現しにくくってしかたがないじゃないですか。だから近代英語っていうかアメリカ英語では、billion を million の一千倍ってことにしたのだろう。そうでないとインフレのさなか、国家予算の話なんかしにくくってしかたなかっただろうし。こうして考えてみると、インフレは言葉まで変えてしまったわけですね。またハイパーインフレかなんかが来て日本の国家予算のケタがめちゃくちゃ大きくなったら、無量大数とか不可思議とかいうロマンチックな数詞は廃止されて、もっとカンタンな名前に変わるかもしれない。まあ、そこまでインフレが進む前に通貨の切り下げをやっちゃうだろうけどなあ。惜しいなあ (って、惜しいのか?)。